イメージトレーニング正しくは「ビジュアライゼーション」と言います。
「イメージトレーニング」は和製英語らしいですよ。
技術系スポーツ(体操、スノーボード、フィギアスケートなど)ではトレーニング時間のほとんどをこのスキルに使っているのでは?と思うほど重要なメンタルテクニックですね。
具体的には「イメージ」ですから、要するに頭の中で物事を「思い浮かべる」というテクニック(スキル)です。
さて、唐突ですが「ラクロスのスローイングをイメージし、そのプレーを実際にやってみてください」と言われたとします。
できますか?
これができる人は過去にラクロスというスポーツを知っており、見た事があり、また経験したことがあるはずです。
しかしこれが出来なかった人はラクロスというスポーツを知らない、そのプレーを見た事がない。
つまり知らないし見た事もないから
「イメージ」できないしプレーも出来ないわけです。
このようにイメージトレーニングの第1段階は
1.
見る事2.
知る事この2つから始まります。
例えばスキースクールでは、先生は必ず生徒さんにデモを見せますね。
映像(動作)を最初に眼から入れる事で
「イメージ」を作るためです。
また野球部などで、一年生は球拾いをさせられる事が多いですね。
また職場でも雑用ばかりさせられます。
これは先輩がやっている練習(仕事)を見ながら、まずは動作(行動パターン)を情報として眼から入れるという
「イメージトレーニング」となっているのです。
やる気に満ちている選手は球拾いをしながら先輩のスイングを映像として脳に焼き付けたり、「補給からスローイングのステップってああやるんだ」などと考えながら見ています。
どちらの例も
「見て真似をする」という行動となります。
イメージトレーニングの初歩は、赤ちゃんや子どもが普通にやっている事と同じなんですねえ。
「百聞は一見に如かず」こんな言葉もイメージトレーニングの初歩を深く納得させる言葉の一つですよね。
<雑談 1>
こんな面白い過去の実験結果もあります。
バスケットボールのチームを2つのグループに分け、それぞれに違うシュート練習を1週間試してもらい、最終日にその結果をみるというものです。
チーム1
●ただただ何度もシュートを打ち続ける
チーム2
●ゴール前に立ってボールの軌道をイメージしながら(ボールを使わずに)シュート動作の練習を続ける
さてどのような結果が出たと思いますか?
お察しの通り、どちらも同じような結果だったのです。
私の現場(スノーボード)でも似たような事が起きています。
不思議に思われるかもしれませんが、選手が一番「調子が良い」「伸びている」と感じるのは、なんと
シーズン初めなんです。
長い間滑っていないのに、いきなりシーズン初めに調子が良い?
おかしな話に聞こえますよね。
これはオフシーズン中に、雪が無くとも気力&体力が充実した時期に多くの時間を使ってイメージトレーニングに集中していたからと推測できます。
滑っていなくても滑っていたくらいの効果が現れたということです。
みんなスノーボードが大好きなので、暇さえあればスノーボードの事を考えているわけです。
スノーボードの動画を観たり、スノーボードしてるように身体を動かしたり、来季のトリックのプランを考えたり。。。
駅のホームで傘を使ったゴルフスイングの練習をするサラリーマンの方(笑)も一緒ですね。
正にバスケットボールの話と同じく、イメージすることは実際に体を動かすトレーニングと同様の、時には
それ以上の効果を発揮するのです。
上記の話を基に考えると、ケガをした場合もただ日々後悔しているのではなく、逆に「チャンス!」と思う事もできるのです。
また週末しか滑れない学生や社会人の場合でも同じです。
どれだけ平日にたくさんのイメージトレーニングを行ったかは非常に大きく結果に影響するでしょう。
<雑談 2>
こんな面白い実験結果もあるんですよ。
静かに座って目を閉じある動作をイメージするとき、節電図などで体を測定してみると、その動作を行うための筋肉が微量ではありますが反応を示すそうです。
つまり脳内で描く
イメージが、自然と体中の神経に電気信号を発して
生体反応を起こさせるという事です。
この
筋反応はそのイメージがリアルであればあるほど大きくなるとか。
例えば、梅干を食べる!とイメージすると自然にヨダレが出るように。
スノーボーダーでは、夢の中でグルグル回ったという翌日に実際に回れるようになっていたとか。
よくある話ですね。
どちらも脳の
イメージが体の神経反応を促した
生体反応です。
人間の脳は
右脳、左脳に分かれていて
左脳は論理、計算といった系統だった物事を処理し、
右脳は
イメージや空間認知を司っています。
上の実験結果や例は、
右脳からその映像に見合った反応をするよう、各器官に電気信号が送られるようになるということです。
考えてみればごく自然なことですよね。
さて、「イメージトレーニング」は大きく以下の2つに分ける事ができるそうです。
1.客観的 外から他人を見ているように自分や状況をイメージする(TVを観ているように、幽体離脱のように)
2.主観的自分の内部感覚(目、鼻、口、耳、肌神経など)を通して得るものに集中&イメージする
上記のスキースクールや野球部のように、運動はまずは見た目を真似るところから始めますが、これはつまり
「客観的」イメージと言えるでしょう。
またそれがしっかり身体感覚として理解できるようになってきたら
「主観的」イメージを持てるようになったという事です。
まずはこの順番を理解しないと「イメージしろ!」と言われてもできるものではありません。
例:
憧れの選手の動画を見て構えやスタイルを真似してたら、バランスの位置が分かったし運動がスムーズになった!
ではここで私が現場で実際に選手に指導している
「イメージトレーニング実践法」をご紹介しましょう。
上から順番に行っていきます。
1.リラクゼーションこれによりまずは頭の中の余計なスイッチ(不安、心配事、恐怖。。。)を全て切ります。
これにより脳はスポンジのような(何でも柔軟に吸収する)状態となります。
2.サイキングアップ何でもいいので自分がワクワクする事を思い浮かべたり、見たり聞いたり話したりします。
これにより意欲
(自発性)が生まれ脳へのインプットの準備が完了します。
3.集中これからフォーカスしたい事を明確にし、その事にのみ脳のスイッチを入れる。
4.イメージ① 動作分析(
左脳)
まずはイメージトレーニングの初歩
「知る」を実行します。
やった事のないものはイメージしようがありません。
そこでまずはその運動がどのように行われているのか
分析し、その運動(情報)自体を理解します。
映像やシークエンス写真を見ながら、その詳細を紙に書き出していきましょう。
自分で「HowTo」を書いているような感じですね。
これはイメージで使う「右脳」ではなく、情報処理などで使われる
「左脳」を使います。
例:
● どの部位がどの方向にどれくらい動くのか?
● 目線はどこを見ているのか?
● タイミングはいつ?
② 映像インプット(
右脳)
次はイメージを司る
右脳に
映像を記憶させます。
映像を頭の中で再生してみましょう。
更に何度も何度も映像(写真)を見て、目をつぶっても鮮明に詳細までも確認できるレベルまで繰返しましょう。
③ 感覚の理解
実際に体を動かしてみます。
鏡の前などで動きを確認しながら行う事が好ましいでしょう。
このとき、脳から発した信号(イメージ)と、実際に動いた筋肉運動との
誤差を理解します。
筋肉からの
情報を脳に戻すということです。
筋肉から戻された情報と、再度確認するイメージ映像から
修正を行います。
要するに
右脳と
左脳へ入っているデータと内部感覚を(鏡を前で)
比較し修正します。
例えばお気に入りのスノーボード動画があって、その中で練習したいトリックが見れるのであれば、
サイキングアップと
集中、さらに
イメージは一度に行う事が出来ますね。
こうやって
「客観的」イメージは
「主観的」イメージへと変わっていきます。
これを何度も繰り返し、自分が望んだような理想の生体反応を獲得する、それがイメージトレーニングのシステムと理解しましょう。
今回参考にさせていただいたサイト様「
イメージトレーニング ~一人で行う自主トレーニング~」では以下のように言っています。
「イメージの鮮明度 → イメージのリアリティー → イメージの回数」
鮮明度は何度も繰り返し映像(写真)を
右脳に焼きこむこと。
リアリティーは何度も
真似をすること。
そして回数を重ねることでより
「客観的」イメージが
「主観的」イメージに近づくという事ですね。
<雑談 3>
私の現場には
「主観的」イメージしか持たない選手もよくいます。
具体的な映像イメージ(
「客観的」イメージ)がないので、要するに特定の「手本」という物を持っていません。
彼らはおそらく様々な過去の運動経験から似た感覚を引っ張り出し、目の前の映像(動画、デモなど)とその神経的内部感覚(
「主観的」イメージ)を重ねているのでしょう。
ですからそのパフォーマンスはどこか無理やりに見えたり、スケートボード寄り(パフォーマンス結果とスタイルの両立)ではなく体操寄り(見た目よりパフォーマンス結果)な運動に見えたりします。
昨今のスノーボードは上手くて当たり前、どのようなスタイルで「かっこいい」と魅せるか、そんな時代です。
もちろんどんなスタイルでも自然な運動であれば高く評価されますが、スケートボード的なパフォーマンスが好まれるのは事実です。
過去の経験から、
「主観的」なイメージ主導でスノーボードする選手にはなかなかスタイルを見ることはできないというは事実です。
しかし見た映像からいきなり
「主観的」なイメージに入れるスキルというのは凄いスキルでもありますね。
この
「客観的」&「主観的」イメージはさらに以下のように分けて考える事が出来ます。
①
内的&
外的イメージ
本来は「内的=主観的」「外的=客観的」と表されていますが、私の感覚ではこれらは同じ物とは考えません。
先に話した
「主観的」イメージの中に内的と外的イメージ置くように捉えています。
「集中力」で紹介した侍の話などは、これに近い話と言えると思います。
分かり難い場合は無視して読んでください。
●
内的イメージ -
体の内部で感じる感覚
例:運動感覚、肌感覚(温度、圧力など)、筋肉への意識、力加減、タイミング、感情
ジャンプを抜ける瞬間の運動を感覚的にイメージする場合、また成功して喜ぶことをイメージしている場合、どちらも「客観的
内的」イメージと言えるでしょう。
●
外的イメージ -
目から見えるもの、外部の状況
例:入ってくる映像、運動の進行方向(ライン取り、軌道)、距離感、音、香り、スピード感
バックカントリーで撮影しているスノーボーダーは、これから飛ぼうとするクリフ(ガケ)の上に立ち雪球を落とします。
これは自分が飛んでいく軌道と距離、時間をイメージする為にやっている「主観的
外的」イメージですね。
②
時間的イメージ
スノーボーダーが日々取り組んでいる「イメージトレーニング」は、そのほとんどがトリック一つ、それも「抜け」の瞬間だけとか空中姿勢だけ、などです。
例えば抜けはキレイなのになかなか立てない選手は、聞いてみるとランディングのイメージをほとんど持っていませんでした。
お気付きかもしれませんが、こういった選手がイメージしている事の実質的時間は非常に短いですね。
これらをどんどん長い時間イメージでつなげる事ができると、それは「メンタルリハーサル」というものに変わっていきます。
以下のように分ける事ができるでしょう。
● 短いイメージ - 技術練習(ターンの形、ジャンプを飛ぶ瞬間、基本姿勢の確認など)、成功した瞬間の感情
● 長いイメージ - ライディング1本の流れ、試合の流れ、一日の行動パターン
先に書いた選手のように、どんどん時間的に長いイメージを持てるほど、その完成度が高まっていくのは明白です。
③
運動スキル?
感情コントロール?
ある調査では、イメージトレーニングは運動経験が浅いほど「運動スキルの向上」に、運動暦が長いほど「感情のコントロール」や「集中力の向上」に使われていると言っています。
技術(運動)が安定してくると心には余裕が生まれ、そこから余計な事を考え始め、集中力を別のところに使う事で感情を揺さぶられる原因となるのです。
そこで心理的コントロールが必要になり、また「イメージトレーニング」を利用するのです。
このレベルになると技術的イメージと同時に感情もイメージすることになります。
この「心理的」とは正に感情のコントロールですから、過去に書きましたメンタルスキル(目標設定、リラクゼーション、サイキングアップ、集中、ポジティブ思考)をイメージトレーニングを通して実践するという事になりますね。
●
目標設定取り組んでいるトリック一つ一つや、1ヶ月後の短期目標、シーズン半ばの中間目標、シーズン終わりもしくは数年後の長期目標。
これらそれぞれの理想の状態を鮮明にイメージします。
●
リラクゼーション自分の心が落ち着くときはいつですか?
夜自宅のソファーに座っているとき?
お風呂につかっている時?
おいしいディナーを食べて好きなお酒を飲むとき?
夕日を見ているとき?
こんな状況を自分で知っておき、リラックスが必要なときにそのイメージを呼び起こしましょう。
●
サイキングアップ同じように、自分がワクワクする時を思い起こします。
週末の予定?
がんばった自分へのご褒美?
成功して大喜びしている自分と周囲の人たち?
デート?
こんな状況を自ら作って、気持ちが上がらないときにイメージを呼び起こしましょう。
●
ポジティブ思考行くべき方向に向いていない心の矢印を、行くべき方向へ真っすぐ向かせるイメージを持ちます。
物事に取り組む際に、その行き着く結果の中にプラスの結果を見つけ出し、それを鮮明にイメージします。
●
集中余計なことが頭に浮かばぬよう、シンプルな一つのことを頭に浮かべます。
目をつぶってロウソクの炎や漢字一文字、絵や写真をじーっと見つめるのも集中を得るイメージ法の一つですね。
最近は
「残像イメージ」というトレーニング法もその一つとして知られるようになってますね。
動画を観ながら運動のイメージを作るように、未来の状況をイメージできる「絵」を凝視することは、前者と同じく右脳に強く働きかける事となり、成功を収めるための重要なイメージテクニックと言えます。
条件反射のような自己暗示テクニックですね。
また元水泳オリンピックメダリストの
田中雅美さんも練習の時から
イメージを使って感情のコントロールをしていたとのことです。
<雑談 4>
効率の良い記憶、暗記を実現したい場合、いつがベストか知ってますか?
それは寝る前です!
寝ながら情報の整理(デフラグメント?)を行うので、起きた時にはしっかり情報が整理された状態で記憶されているとの事です。
ですからイメージトレーニングも寝る前にやった方が効率が良いと言えないでしょうか。
寝る前はリラックスしていますし、先に書いたように脳はスポンジのように柔軟に吸収する準備が出来ています。
夢で凄いトリックができてしまったというのは以上の効果が最大限に出た結果かもしれません。
ただし、あまり熱中すると脳が活性化され過ぎて眠れなくなりますのでご注意を!
<雑談 5>
コーチとして選手を見るとき、まずはその選手の感覚を理解するよう努めます。
そうすると彼らの内部感覚を理解するため、彼らのライディングイメージの中に入り込まないといけません。
その時の彼らのパフォーマンスを頭の中で映像として思い起こし、そして次にその運動を真似しながら内部感覚を感じます。
ある程度過去に自分が似たような運動経験がないとできない事かもしれません。
陸上コーチとして名の高い
高野進さんも同じように言っておられました。
これもコーチとしての適切なアドバイスを可能にする大事なスキルです。
これで逆に自分ができるようになったりもしますからね。本当です。
<雑談 6>
恐怖心の克服(距離感、スピード感、タイミングなど)もやはりイメージトレーニングで可能と言えるでしょう。
恐怖は初めて挑むことへの不安や、過去の失敗経験から引き起こされます。
要するに成功するイメージが持てないことが不安となるわけですから、イメージの中でとにかくクッキリと頭の中で映像が見えるほどに成功イメージを描き続ける事が大切です。
失敗イメージが頭にまとわり付くなら、早急にイメージの修正を行わなければいけません。
ここが非常に重要となります。
このイメージの修正が完全にできないままパフォーマンスに臨んでしまうと、体は思うように動かずに、また失敗経験をすることになるのです。
<雑談 7>
夢もイメージのひとつですね。
先にも話しましたが、夢の中で成功したことのないトリックができたとします。
翌日そのまま体が感覚を覚えていて実際にできてしまった、というような話はよく聞きます。
また
妄想というものがありますが、これは想像より強い脳内での
イメージです。
「できるかもしれない」ではなく「そうなる」と
完全に信じている状態です。
こういう
人間の集中状態と
行動力は凄まじいもので、逆に成功はこういった人間でなければ達成し得ないと言えるでしょう。
皆さんの過去の経験を振り返ってください。
何かを達成したときは、その前に完全にそれを信じきった「妄想」状態ではありませんでしたか?
<
保護者や
指導者の方へ>
子供や選手が未来の目標(夢)を話すときは、「そうなる」と信じ込ませる「妄想」状態に持っていってあげることが好ましいですね。
仮に目標に届かなくても、そこまで継続して頑張ることで、子供たちは「集中力」や「強い意思」を持ち続けるという、人生を生き抜く重要なスキルを身に付けることになります。
<雑談 8>
よくトップアスリートのインタビューで、「練習は常に本番をイメージしてます」という言葉を聞きます。
本番をイメージ(想定)した練習というのは、主観的&客観的、内部&外部、短い&長い、全てのイメージを極力本番に近い状態に持っていけるということになるでしょう。
これはより
心理的イメージを多く経験する事で、より
深い集中力を得ようとすることと言えるでしょう。
<雑談 9>
イチロー選手の言葉。
「気持ちも、尊敬している人になりきる。いつも、だれかになりきっていました。」
自分と尊敬している人をイメージで完全に重ね合わせていますね。
これは強力なイメージです。
「なりきる」という状態は、尊敬している人をよく分析して知っていなければ詳細まで真似できません。
そういう人を心の中に持っていますか?
イメージ映像は、経験したことはもちろん、自分が経験していないことでも描くことができるのです。
これは、脳がイメージをするために、過去の類似した経験の引出しをさがし、それを応用して描こうとするイメージ作りの手助けをしてます。
先に触れたように、五感から感情まで全てをイメージのなかで再現できるようになるまでは、かなりのトレーニングや努力も必要です。
イメージのもつ力は大きなものがあります。
「イメージの鮮明度の高さ=リアリティ=実現」ということが言えるのだと思います。
ただ理想を追うのではなく、
現実的に自分に何ができるか、何をすれば自分の能力をより生かすことができるのか?
過去の記事
「目標設定」でも話してますが、まずはそういったことを確認しましょう。
そして実現可能か可能でないか、ギリギリのレベルの目標を持ち、その目標となる対象をより鮮明にイメージするのです。
そして「妄想」状態に入ることができれば、もう大丈夫です!
無茶のないよう確実なプランの上このイメージを実行まで持っていきましょう!
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